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ぴあのピアの徒然日記

福岡でピアノを楽しむサークル、ぴあのピアの日記です。コメントは機能していませんので、メールを頂けると助かります。

グランフィール 

またしても友人に教えられて、興味深い番組を見ることができました。

TBS系の九州沖縄方面で日曜朝に放送される『世界一の九州が♡始まる!』という番組で、鹿児島県の薩摩川内市にある藤井ピアノサービスが採り上げられました。
主役はいうまでもなくここで開発された「グランフィール」。
これを装着することで、アップライトピアノのタッチと表現力をグランド並みに引き上げるという画期的な発明です。それを成し遂げたのがここの店主である藤井幸光さん。

グランフィールは2010年に国内の特許取得、2015年には「ものつくり日本大賞」の内閣総理大臣賞を受賞、いまや日本全国の主なピアノ店で知られており、ついには本場ドイツ・ハンブルクでもデモンストレートされたというのですから、その勢いは大変なもののようです。

もともとアップライトとグランドでは、単に形が異なるだけでなく、弾く側にとっての機能的な制約があり、とくにハーフタッチというか連打の性能に関してはアクションの構造からくる違いがあり、グランドが有利であることは広く知られるところ。
具体的にはグランドの場合、打鍵してキーが元に戻りきらない途中からでも打鍵を重ねれば次の音を鳴らすことが可能であるのに対して、アップライトは完全に元に戻ってからでないと次の音がでないという、決定的なハンディがあります。

そんなアップライトに、グランド並の連打性を与えるということは、世界中の誰もができなかったことで、それを藤井さんが可能にしたところがすごいことなのです。
キーストロークの途中から再打弦ができるということは、小さな音での連打が可能ということでもあり、そのぶんの表現力も増えるということ。通常のアップライトでは毎回キーが戻りきってから次のモーションということになるため、演奏表現にも制約ができるのは当然です。
例えば難曲としても知られるラヴェルの夜のガスパールの第一曲「オンディーヌ」の冒頭右手のささやくような小刻みな連続音は、和音と単音の組み合わせによるもので、それを極めて繊細に注意深く、ニュアンスを尽くして弱音で弾かなくてはならず、あれなどはアップライトではどんなテクニシャンでもまず無理だろうと思われます。
それが、グランフィールが装着されていたら可能になるということなら、やっぱりすごい!
もちろん夜のガスパールが弾ければ…の話ですが。

マロニエ君は2011年に、ピアノが好きでここからピアノを買われた方に連れられて藤井ピアノサービスを訪れ、いちおうグランフィールにも触れてはみたものの、上階にすごいピアノがたくさんあると聞いていたため、わくわく気分でそっちにばかり気持ちが向いて、あまりよく観察しなかった自分の愚かしさを今になって後悔しているところです。

その構造については長いこと企業秘密だったようですが、今回のテレビでちょっと触れられたところによれば、ごく小さなバネが大きな役割を果たしているようでした。もちろんそこに到達するには長い試行錯誤があってのことでしょうし、藤井氏が目指したのは「シンプルであること」だったそうです。

しかもそれは既存のアップライトに後付で装着することができて、技術研修を受けた技術者であれば装着することが可能、それを88鍵すべてに取り付けるというもの。
また、このグランフィールを取り付けた副産物として、キレのある音になり、さらにその音は伸びまで良くなるというのですから、まさに良い事ずくめのようでした。料金は20万円(税抜き)〜だそうで、きっとそれに見合った価値があるのでしょう。

開発者の藤井さんは、もともと車の整備の勉強をしておられたところ、高校の恩師のすすめでピアノの技術者へと転向されたらしく、車にチューンアップというジャンルがあるように、ピアノも修理をするなら前の状態を凌ぐようなものにしたい、つまりピアノもチューンアップしたいという気持ちがあったのだそうで、そういう氏の中に息づいていた気質が、ついにはグランフィールという革新的な技術を生み出す力にもなったのだろうと思いました。

これはきっと世界に広がっていくと確信しておられるようで、それが鹿児島からというのが面白いとコメントされていました。
たしかに、大手メーカーが資金力や組織力にものをいわせて開発したのではなく、地方のいちピアノ店のいち技術者の発案発明によって生みだされてしまったというところが、面白いし痛快でもありますね。

鹿児島は、歴史的にも島津斉彬のような名君が、さまざまな革新技術の開発に情熱を傾けたという歴史のある土地柄でもあり、藤井さんはそういう風土の中から突如現れたピアノ界の改革者なのかもしれません。

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2017/08/07 Mon. 02:22 | trackback: 0 | comment: -- | edit

『ピアノと日本人』 

TV番組のチェックのあまいマロニエ君ですが、友人がわざわざ電話でNHKのBSプレミアムで『今夜はとことん!ピアノと日本人』という90分番組があるよと教えてくれたので、さっそく録画して見てみました。

ナビゲーターというのか出演は、女性アナウンサーとジャズピアニストの松永貴志氏の二人。
あとから聞いたところによると、そのアナウンサーは民放出身の加藤綾子さんという有名で人気のある人だそうで、今回NHKには初登場らしいのですが、マロニエ君は今どきの女子アナが苦手で興味ゼロなので、どの人も同じようにしか見えず「へーぇ」と驚くばかり。
音大出だそうで、冒頭でマニキュアを塗った長い爪のままショパンのop.9-2のノクターンを弾いていましたが…そんなことはどうでもいいですね。

印象に残ったシーンを幾つか。
日本に最初にやってきたピアノはシーボルトのピアノというのは聞いたことがありましたが、それは山口県萩市に現存しているとのこと。
江戸時代、豪商だった熊谷義比(くまやよしかず)が膝を痛め、その治療で長崎のシーボルトの診察を受けたことがきっかけで交流が始まり、日本を離れる際に熊谷氏へ贈ったスクエアピアノでした。
それが今も熊谷家の蔵の中に展示保管されており、ピアノの中には「我が友 熊谷への思い出に 1828年 シーボルト」と筆記体の美しい文字で手書きされていてました。
日本最古のピアノというのもさることながら、いらい200年近く熊谷家から持ち主が変わっていないということも驚きました。

東京芸大ではバイエルが話題に。
メーソンが来日した折、日本にこの教則本を持ち込んだのが始まりということですが、その後にウルバヒという教本も登場し、両書はその目的がまったく異なっていたとのこと。
バイエルが指使いの訓練を重視しているのにくらべて、ウルバヒは音楽の楽しさや美しく曲を弾くためのテクニックを学ぶ練習曲が多いようで、この場面で登場したピアニストの小倉貴久子さんが弾いたのはウルバヒの中にあるシューベルトのセレナーデで、マロニエ君だったら迷わずウルバヒで学びたいと思うものでした。
しかし、当時すでに先行したバイエルが定着しつつあり、多くの先生がそれをもとに指導を始めて体系化されつつあり、ウルバヒでは指導方法がわからなかったという事情もあって、すぐに消えてしまったようでした。もしこれが逆だったら、日本のピアノ教育もまた違ったものになっていたような気もしました。なんとなく残念。

大阪では堺市にある、クリストフォーリ堺を二人が訪ねます。
ここは世界的にも有名な、歴史的ピアノの修復をする山本宜夫氏のコレクション兼工房で、氏は「神の技をもつ」と賞賛されてウィーンなどからも修復の依頼があるのだとか。
建物の中には歴史ある貴重なピアノが所狭しと並び、工房ではチェコ製のピアノが響板割れの修復をしているところでした。響板はピアノの一番大事なところで人間の声帯にあたり、これが割れることは致命傷だと山本氏は言いつつ、割れた部分にナイフを入れてすき間を広げ、修復するピアノに使われている響板と同じ時代の同じ木材を細く切ってていねいに埋め木がされていきます。
それにより、修復後は割れる前よりもよく響くようになるとのこと。
「割れる前よりよく響く」とはどういうことかと思ったけれど、その理由についての説明はありませんでした。時間経過とともに枯れて張りを失った響板が埋め木をすることでテンションが増すなどして、より響きが豊かになるということだろうか…などと想像してみますが、よくわかりません。

熊本県山鹿市のさる呉服屋が、大正時代にスタインウェイを購入。
そこの娘が弾くピアノの音に、隣りに住む木工職人の兄弟が強い関心をもち、娘に弾いてくれとせがんではうっとりと聞き惚れています。
当時のピアノは家が何軒も建つほど高価だったため、一般庶民はもちろん、学校などでもピアノなどないのが普通の時代。このピアノの音を子どもたちにも聴かせたいという思いが募り、木でできているようだし、買えないならいっそ作ってみようと一念発起します。
木村末雄/正雄の兄弟は、呉服屋の迷惑も顧みず、毎日々々ピアノの構造を確認しながら、見よう見まねで製作に没頭、数年の歳月を経てとうとうピアノを完成させたというのですから驚きました。
木村ピアノは十数台が作られ、現存する1台が山鹿市立博物館に置かれています。
幅の狭い、見るからにかわいらしいアップライトで、内部の複雑なアクションまで見事に作り込まれており、楽器の知識もない木工職人が、呉服屋のピアノを参考にこれだけのものを作り上げたその技と熱意は途方もないものだと思いました。まさに日本人の職人魂を見る思いです。

これを有名な芝居小屋である八千代座に運んで、地元の子供達を招いて松永貴志氏が演奏を披露。
すると、子どもたちが返礼としてこのピアノを伴奏に美しい合唱を聴かせてくれました。
山鹿市にこんなピアノ誕生の物語があるとは、まったく知りませんでしたが、いろいろと勉強になる番組でした。


2017/07/30 Sun. 00:12 | trackback: 0 | comment: -- | edit

価値はいずこ? 

日本人による日本製のピアノに関する評価基準というのは、大メーカーの製品ばかりが中心らしく、楽器としての正当な評価がなされてはいないだろうと思ってはいたけれど、根深い大ブランド偏重という点では、やはり驚くべきものがあるようです。

具体的なブランド名は敢えて書きませんが、ネットの相談コーナーを見ていると、国内で一定の評価を得ているいくつかの手造りピアノと、大手による大量生産のピアノ(どちらも中古)のいずれを購入しようかと悩んでおられる方の質問がありました。

価格はブランド力の違いからか、良質な素材を使っていると定評ある手造りピアノのほうがむしろ安く、単なる量産品のほうが逆に高額だったりで、ずらりと書き込まれた回答者達は、技術者/一般ユーザーいずれも大手の製品を当然のように勧めていることにびっくり。
それも楽器としての価値や魅力、音の善し悪しに照準を当てた話ならともかく、大したこともないわずかな安心感や、さらには将来の買取価格/リセールバリューに関する価値ばかりが大真面目に取り沙汰されていることに愕然としました。

これから手に入れて長い時を共にするピアノであるのに、果たしてどれが本当に弾いて楽しく喜びを得られるかという記述はひとつもなく、主にわずかな買取価格の話にばかり終始します。手作り品のほうは知名度が低いから殆ど値がつかないとか、下手をすれば処分代をとられることもある、それに比べれば量産品のほうがまだかろうじて値がつくわけで、だから有名メーカーの方を買われることをおすすめしますといった主旨のもの。

これが業者間の話なら、事はビジネスだからそういった意見もまだいいとしても、一般のユーザーに宛てたアドバイスがそこだったことにとても驚かされたというかショックを受けました。

たしかに相談者がどういった部分に重点を置いて相談されているかまでは正確にわからなかったことも事実ですが、すくなくとも質問の感じからして、それをさらに将来手放すときの金銭的価値の話ではなく、ピアノとしてどっちを選んだほうがいいでしょうか?という、単純かつ漠然としたものだったように感じられました。
おそらく、音の感じとかピアノとしての味わいや音楽性などのことと、機構的な心配はないかといったことだろうと思います。
とこらが、回答者はすべて「買取の場合にどれだけ値がつくか」という一点のみに終始し、純粋に楽器としての良し悪しに対する記述は一つもないのには言いようのない価値基準の貧しさを感じました

これからピアノを買って、家において、弾いて、音楽に触れ、ピアノと関わろうというのに、将来手放すときの金銭的価値が残るか残らないか、そういうことばかりに価値を置き、だから大手メーカーがオススメだと何人もの人が堂々と言ってのける感性には、本当に驚かされました。
極め付きは「わざわざ❍❍万円(売値)の処分困難な粗大ゴミをあえて買いますか?」といった強烈な言い回しで、こんなにも文化意識の欠落した寂しい考え方があるのかと思わず背筋が冷たくなりました。

たしかに、手作りとは名ばかりの、アジア製の得体のしれないたぐいのピアノならわかりますが、れっきとした日本のピアノ史に名を残す名器と言われるようなピアノが、いざとなるとこのような不当な扱いを受けていることにただもう唖然とするばかり。

たしかに、将来手放すときにいくらかの金銭的な価値が保持されればそれに越したことはないかもしれませんが、もともとが安い中古品で、出てきた価格はせいぜいちょっとした電子ピアノぐらいのに毛の生えた程度の価格です。
100万円も出すというのなら少しはリセールバリューの面も気になるのはわかりますが、こんな価格帯で職人の気骨で作り上げられたピアノがあり、しかも弾いた人が音色や響きが気に入ったとすれば、それが最も大切なことではないかと思うのですが…。

おまけに回答者の言い分としては、そもそもそんなピアノはタダ同然もしくは処分料を取って仕入れるのだろうから、販売する業者は「ボロ儲けのはず」で、そんなボロい商売にまんまと乗せられるようなことは自分はしない!というようなニュアンスの記述まである始末です。
でも、いくら仕入れが安くても、今どきピアノなんてそう簡単に売れる品目ではないし、中古の場合、商品として仕上げるためには相当の労力が必要とされ、おまけに売れるまで在庫としてかかえるリスクまで考えれば、ボロ儲けだなんてマロニエ君にはとても考えられません。

そういえば思い出しましたが、車でも新車を買う際、自分が一番気に入った色ではなく、将来下取に出したときに少しでも有利になる人気色で決める人が少なくないらしいのですが、こういうこともどこかおかしいなと思います。

それでも車は何色でも機能的には無関係ですが、ピアノはメーカーや材質や製造者のこだわり如何によって音や響き、ひいては音楽する喜びまでまったく変わってくるというのに、大量生産の大メーカーでないピアノは粗大ゴミだと決めつけ、相談者へさも真実のアドバイスであるかのように言うとは、その勘違いと偏りはいささか度が過ぎていやしないかと思いました。

だったらベニヤ板みたいな響板に羊毛のクズを固めたようなカチカチの超安物ハンマーが付けられた、音階の出るおもちゃみたいな音しかでなくてもても、鍵盤蓋に有名メーカーのロゴさえあればいいということですね。
これが悲しき現実なんでしょうか…。

2017/06/11 Sun. 01:29 | trackback: 0 | comment: -- | edit

相談 

車の仲間である某氏から、思いがけなくピアノの相談を受けました。

車の集まりではピアノのピの字も口にしないのですが、まあそれでもマロニエ君がピアノ好きであることを何かの折にチラリと話したことが相手の方の記憶の底に残っていたようです。

その相談というのが、30数年前にカワイのアップライトピアノを買われて、それをさらにそのお子さんが受け継いで弾いておられるようで、なんとも素敵な話です。
中学生ぐらいになり、だいぶ上達したとのこと。
ところが、ピアノの先生のところにはグランドがあって、お子さんによれば先生のところのピアノは弾きやすく、それに比べると自分のピアノは甚だ弾きづらいとのこと。
とくに強弱の差がつけにくいとあって、それが思った通りに弾けないという点に不満が募っているらしく、どうしたものか…ということでした。

すでに古いピアノではあるし、機能的にもそういう「問題」が出ているから買い替えも検討中とのこと、ピアノといえども機械ものなのでそういうものだろうか?というご相談を受けたというわけです。

もちろんマロニエ君は専門家ではなく、一介のピアノ好きにすぎず、責任ももてないので断定的なことは敢えて言いませんでした。
言えることといえば、グランドとアップライトではアクションの構造がまったく違うので、グランドを買われるのならともかく、同じアップライトをただ新しいものに買い換えられるのであれば、事前によく考えてみるべき余地があるということ。

言うまでもなく、ピアノは木材の他に金属、多くのフェルトなどの天然素材を多用し、それらは弾かれることと経年変化によって「消耗」するものだということ、無数のパーツがまさに精密機械のように複雑に組み上げられ、機能し合うことによってピアノ本来の弾き味を作り出しているということを簡単に説明しました。
ほんらい弾力があるべきものが固く潰れてしまえば本来の柔軟な動きは阻害され、とりわけ微妙なタッチコントロールはにづらくなるわけで、もともと機械ものにはめっぽう詳しい方なので、車と楽器という違いはあれども、理屈はあるていどすんなり理解されたようでした。

で、素人のマロニエ君が想像でいくら何を言ってみたところで埒が明かないので、ひとまずオススメしたのは、信頼のおけるプロの技術者の目でそのピアノが現在どのような状態になるかを見てもらい、各所の調整や簡単な消耗品の交換によって本来の機能を取り戻せるのか、価格はどれぐらいか、あるいはもっと本格的なオーバーホールが必要なのか、そのあたりのことを正しく判断してもらうのが最良ではないかといいました。

さらに最も気をつけるべきは、優れた技術を持たれた方というのは当然としても、メーカー系の技術者には決して依頼せず、販売ノルマのかかっていない、フリーの技術者さんに診てもらうという点だといいました。
べつにメーカー系の方を批判するつもりはありませんが、メーカーに在籍してそこから給金をもらっているからには、上から新品の販売圧力がかかっているのは当然だからです。これは世の常ともいうべきことで、どんなジャンルでも似たりよったりかもしれませんが、とくにピアノ業界はその傾向が強いように感じるからです。

聞いた話では、簡単にできる修理も調整も敢えてしないで、素人にわからない専門用語を並べ立てて買い替えに誘導するというあまり感心できないやり方です。もちろん新品が売れて初めて利益が出る会社にしてみればやむを得ない手段かもしれませんが、でもやはりマロニエ君は充分修理や調整の可能なものを「できない」と言いくるめて、望まない買い換えを強引にさせるというやり方には賛成しかねるのです。

昔のピアノはとくに一流品でなくても、あたりまえに木材をはじめ普通に天然素材を使って作られていましたが、今のピアノは(聞いた話ですが)外目は立派すぎるほどの分厚くてピカピカの塗装で覆われているから見てもわからないけれど、普通の人が木だと信じている部分の多くに、木の屑を集めて固めた集成材はじめ、ひどい場合はプラスチックなども多用されている由。とても楽器と呼べるようなものではなく、心に滲みない機械的な音階の出る製品に成り下がってしまっているとも聞きます。

不幸にして家が火災になったところ、木だと思っていたピアノ(全部ではないでしょうけど)がドロドロと溶け出してプラスチックが多用されていたことがわかったという話も聞いたことがありますし、おそらく技術者さんたちはもっとお詳しいのでしょうけれど、みなさん業界に身をおいてお仕事をされるためか頑なに口をつぐんでおられるようです。

また、有名な日本製ブランドは名乗っていても、とくにアップライトに関してはアジア製であったり、あるいは「日本製」とするために、ほとんど海外で出来上がったものを輸入して、最終組み立てだけ日本でおこなうというようなことだけするようなケースも珍しくないそうです。
何かの本で読みましたが、ほとんど完成したピアノを途上国から輸入して、ペダルだけ日本で取り付けて「日本製」とするような場合もあるようで、マロニエ君だったらそんなピアノは絶対に欲しくはありません。

できたら、最低限の消耗品の交換と調整によって、本来のきちんとした機能を取り戻してくれることを願っています。

2017/06/03 Sat. 01:58 | trackback: 0 | comment: -- | edit

うれしい変身 

シュベスターの調律を含む、各種調整をやっていただきました。

前回書いたように、音の良さも霞んでしまうほどに納品後の調律は乱れ、タッチもバラバラ、ペダルのタイミングも過剰気味で、せっかくの日本屈指の手造りピアノであるはずなのに、それらしき片鱗はあまり感じられない状態でした。

これまでのグランドの調整経験からしても、この状態が気落ちよく弾けるようになるまでには、相当の時間が必要だろうし、それでもどうなるかは保証の限りではなかったので、事前に技術者さんにメールをし、納品から10日ほど経っての印象、とりわけ問題と思われる箇所等を書き出して具体的に伝えることにしました。

そのほうが技術者さんにこちらの不満点というか、希望を文書で伝えることができるし、そういう心づもりで来ていただいたほうが、いきなり伝えるより良いだろうと思っての配慮でもありました。
図らずも長文になったメールに対して届いた返事は、たったの一行「メール確認致しました。〇〇日(約束の日)に調整しますのであと少しおまちください。」というもので、これにまずひっくり返りました。

普通の調律師さんなら、いろいろな説明やらなにやらで、当方を少しでも安心納得させるようなことをいくらかは書かれるのが普通ですが、このシンプルさはまるで結果しか興味のない武士のようでした。
とはいえ、ご本人はとてもあたりの良い、優しい素晴らしい人柄の方なので、文章になると一転してそういうふうになる男性っていますから、まあともかく約束の日を待つことにしました。

当日、ピアノのある部屋に案内したあとは、メールを出していることでもあるし、技術者さん側からもとくに質問たしきこともないので、直ちに作業開始となりました。加えて驚いたのは「グランドは多少時間がかかりますが、アップライトの場合はだいたい2時間ぐらいで終わると思います。」と、いともすんなりいわれたこと。
えっ!?ほんとうに!?

まあ、こちらとしては結果が良ければ途中経過はどうでもいいわけで、まずはやっていただく事になりました。

冒頭にも書いたようにタッチはバラバラで、だいたい白鍵は50kg以上、黒鍵に至っては60kg以上もあって、弾きにくいといったらないし、しなくてもいいミスタッチをしたり、出るべき音がでない、逆に必要以上の強い音が出るなど、要するに乱れまくっていました。
また右ペダルもちょっと踏んだだけで過剰反応し、ほとんど調整らしきものが効かずにワンワン響くだけだったし、調律に至ってはただ唸りが出ているというレベルではなく、素人でもわかるほどあちこちの音が1/4ぐらい下がっていたりと、まあとにかく散々だったのです。

作業開始から2時間ほど経った頃、「すみません、もう少し時間がかかりそうです」といわれ、こちらも「そりゃそうだろう」と思いましたが、プラス1時間ほど経ったころ別室にいると携帯に電話が鳴り、「だいたい終わりました」と言われてまたびっくり。
部屋に行くともう片付けに入っています。
お定まりの「どうでしょう、ちょっと弾いてみてください」と言われ、ちょっと鳴らしてみると、「えっ、これが同じピアノ!?」というほど音からタッチから、何もかもが良くなっていて、ただもうびっくり仰天でした。

無論調律をしているので音程が揃って気持ちいいのは当然としても、音色ものすごく良くなっているし、タッチは全体になめらかで均一で、コントロールも効くしとても弾きやすくなっていました。
ペダルも踏んだ感触と効き方がリニアになっているし、あれだけの問題をこんなにすんなり解決できるというのは、マロニエ君の長いピアノ生活の中でもまったく初めての経験でした(翌日経ってみると、鍵盤のダウンウェイトは平均して50kg前後にきれいに収まっていて、いやはやお見事!)。

この方の技術が特別なのか、あるいははじめに言われたようにアップライトはそれほど調整に手間暇がかからないのか、そのあたりのことは今だ不明ですが、いずれにしろこんなに驚いたことはありませんでした。

それと、ときどき仕上がり具合を確かめるためか、ジャズ風な曲を試し弾されているのがドア越しに聴こえるときが幾度かありましたが、その音の美しいことは思わず立ち止まるほどで、これがシュベスターたる所以かと感銘を受けました。
決してエッジの立った音ではないのに、色艶があって、どこまでも澄みわたった美しい音色は、これまで一流品以外のピアノからはついぞ聴いたことのないもので、たしかに上質な音であるばかりか、きわめて音楽的なのです。

自分で弾いても、楽器を弾いているという実感がたえずあり、弾くごとに心が刺激されところは特筆に値するピアノだと思います。きれいなような音は出るけれども心の通わない大量生産品とは、ここがまったく違うところだと思いました。
個人的にシュベスターはかなり自分の好みに合うピアノのようです。


2017/05/27 Sat. 02:03 | trackback: 0 | comment: -- | edit

環境の変化? 

大阪・神戸で一流ピアノ三昧に明け暮れ、帰宅した翌日のこと。
先日納品されたシュベスターを数日ぶりに弾いてみると、とても美音とは言いかねる混沌とした音にびっくりしました。

もちろん関西で弾いてきたピアノは最高ランクの一級品ばかりだったので、自分の耳も感覚も良い方に少し狂ってしまっていたかもしれませんが、それにしても「これはあまりにも…」と思いました。

納品前に軽くやったという調律は、時間が経つにつれますますバラバラに狂ってしまっているようで、ちょっと何曲か弾いてみましたが、早急にどうかしないと…という印象でした。
納品早々に、丸4日ほど放置していたわけですが、所詮はヤフオクで衝動買いしたピアノですから、何があっても不思議じゃありません。

「もしかしてピンズル?」というイヤな疑念が頭をかすめます。
古めのピアノにはチューニングピンがきちっと止まらなくなるピンズルという症状が出てしまうことがあり、納品から一週間も立たないうちにここまで狂ってしまったのは、そのせいではないかとまず思い、とりあえず技術者さんに電話してみることに。
納品調律は来週後半に約束はしているけれど、これではあんまりなので、もし可能ならもう少し早く来てもらって、少しでも早くきちんとした律調をやってもらいたい衝動に駆られました。

電話に出た技術者さんによると、果たしてピンズルは調律をやっているとだいたい感触でわかるのだそうですが、我がシュベスターには幸いまったくそういった兆候は見られなかったので心配には及ばないとのこと、それはそれで一安心ではありました。
でも、それなら、なんでこんなに狂ってしまったのかという疑問が残ります。

技術者さんが云われるには、ピアノは納品のための移動や環境の変化によって大幅に狂ってしまうことが珍しくないので、納品調律もすぐにはやらず、新しい環境に馴染むまで、できれば最低一週間は待ったほうが自分は良いと思いますと言われました。
考えてみれば3月上旬から5月という、日ごとに天候が激変する季節に、冷暖房のない厳しい環境でまるまる2ヶ月間を過ごしたわけで、それがいきなりエアコンのある室内へとにやってきたのですから、たしかに環境の変化というのはかなりのものがあるだろうと思いました。

中には納品時に運送屋と同道して、すぐに納品調律されるケースもありますが、それなら買った側も納品初日から調律の整った状態で弾けるというメリットはあるかもしれませんが、長い目で見れば時間を置いたほうが調律の安定という点では望ましいようです

というわけで、現在のところシュベスターの本来の良さは発揮されているとは言い難いけれど、弾いているうちにわずかに復調するような部分もないではなく、やはり優しげな音を出すピアノということは次第に思えるようになりました。
しかし、繰り返すようですが、前日まで関西で極上のヴィンテージスタインウェイのDのあれこれや、カワイのSK-7など、通常ではめったに触れる機会のないピアノにばかりに接してきたせいで、マロニエ君の音に関する尺度もずいぶん変化してしまったらしいことも、こうした印象に繋がってしまったかもしれません。

そもそも、価格的にも形状的にもお話にならないぐらい違うピアノですから、比較すること自体がナンセンスですが、それでもシュベスターの歌心と鷹揚な個性は、狂ってしまった音の中からときおり聴こえてくるものがあり、ピアノはこのブログを書いているパソコンのある机のすぐ真後ろにあるのですが、存在にイヤ味も圧迫感もなく、なんだかとってもかわいい奴だなあと思います。
というのも、ピアノというのは大きいだけに一歩間違えると、部屋の中での存在はとても無遠慮で暑苦しいものにもなることがあるというのはマロニエ君の長年の経験から得た印象です。
これがもし大手量産メーカーのピアノだったら、その危険度も高く、ちょっとしたことですが気持的にそういうふうに思えるだけでも、シュベスターは愛すべき存在だと思います。

シュベスターとはドイツ語で姉妹という意味だそうですが、そういう愛情とか優しさみたいなものをどこかに持ってるピアノで、楽器というのはコンサート用などは別として、家庭でポロポロ弾いて楽しむには、そんな優しい感じの要素もあるていどは必要な気がします。
というわけで、買い方はめちゃくちゃだったにもかかわらず、そこにあるだけで優しい気持ちになれるピアノだったということは、買ってよかったなぁと思うこの頃です。


2017/05/23 Tue. 01:34 | trackback: 0 | comment: -- | edit

関西ピアノ旅 

ほんの数日間ですが、関西まで行ってきました。

目的はいくつかあったけれど、そのうちのひとつは知人が昨年買われたスタインウェイを見せていただくということでした。
大阪の地理にはまったく不案内なので、乗るべき電車と駅名を教えていただき、その通りに行って見ると改札を出たところに知人が待っててくれました。

まずは大阪らしく「二度漬け禁止」の串かつで食事をし、それからご自宅に伺いました。
部屋にお邪魔すると、気品あるつや消し塗装を纏ったModel-D(コンサートグランド)が鎮座しています。
すでに大屋根を開けておられたので、まるで巨大な黒い怪鳥が羽を大きく広げているようでした。

雑談を交わしながら、知人が弾かれるのを聴かせていただいたり、こちらも少し弾かせてもらったりという時間を過ごしましたが、とにかく素晴らしい能力を有するピアノでした。シリアルナンバーが38万台という、ハンブルクスタインウェイの黄金期と言われる時代のピアノで、全体にまろやかで太い音、低音に至ってはピアノも空気も震えるように深く鳴り響き、さすがと唸らされる点が随所に確認できました。

スタインウェイにも世代ごとの特徴というのがあり、この38万台というのは西暦でいうと1960年代の前半にあたり、ルビンシュタインやアラウの絶頂期にも重なるし、壮年期のミケランジェリ、あるいは若いポリーニやアルゲリッチが世に登場して唖然とするようなスーパーピアニズムで世界を驚かせた、あの時代です。
このころのスタインウェイは、後年のようなブリリアント偏重の音色ではなく、ピアノが持っている豊かな潜在力で音楽を自在に表現し、弾く者・聴く者の魂を揺さぶった、いかにもピアノの王道らしい豊かな響きがあふれていると思います。

いわゆるキラキラした音ではないのに、まぎれもないスタインウェイサウンドはしっかりあって、この時代のスタインウェイが今日の同社の名声を不動のものにした(少なくともハンブルク製では)といっても良いかもしれません。
マロニエ君の下手な表現でいくらあれこれいってもはじまりませんが、音の中にたっぷりとした「コク」のある佳き時代の本物の音です。

とくにイメージするのは、アラウの演奏でよく耳にする肉厚で、温かくて重厚、そしてなにより美しく充実感のあるあの音でした。
今のピアノのように、基音は細いのにキラキラ感ばかり表に出したり、パンパンとうるさく鳴らすだけの表面的な音とはまったく次元の異なる、まさに設計・材料・思想なにもかもが理想を追求できた時代のピアノでしょう。

こんなピアノに触れられただけでも、大阪まで行った甲斐がありました。


また、せっかく大阪まで来たことではあるし、実はこれまで一度も行くチャンスのなかったカワイの梅田ショールームにも足を伸ばしてみました。
こういうところに行って、買いもしないのにありったけのピアノを弾いてまわる勇気など持ち合わせない小心者のマロニエ君なので、ちょっとだけとお店の方に断ると快諾を得たので、ガラス張りの試弾室?の中にズラリと並んでいるうちの、GX2(だったか)という、レギュラーシリーズの小さめのグランドに少し触れてみましたが、さすがにメーカーのショールームに展示されているピアノだけあって調整もよくされているし、音にも良い意味でのおろしたての美しさがありました。なによりすべての動きにやわらかい膜がかかったような新品アクション特有の繊細でなめらかな弾き心地には素直に感動しました。

背後から店員の方が静かに近づいて来られて「よかったらあちらのシゲルカワイもどうぞ」と言われ、云われるままついて行くととなりにある小さなサロンのようなところのステージにSK-7が置かれていて、どうぞこれを弾いてみてくださいと言われました。
これまでシゲルカワイはSK-6までの全機種と、SK-EXしか弾いたことがなかったので、むろん恥ずかしさもあったけれど、ある意味スタインウェイなどよりも触れるチャンスの少ないSK-7だと思うと、ここで遠慮をしていては稀有なチャンスを逃すことになるだろうと思い、恥を忍んで少し弾かせてもらいました。

いかにも現代的で、ブリリアントで、まるで上質な洋酒のようで(マロニエ君は下戸ですが)、SK-6よりずいぶん格上な感じがしました。これはもう高級品の部類だと思ったのも道理で、お値段も約600万円也だそうで、さもありなんという感じでした。

ただ、梅田ショールームは有名なわりには想像していたほどの規模ではなく、福岡の太宰府ショールームのほうが台数や種類もあるような気がしたのですが、なにしろ大阪のど真ん中という場所柄でもあり、やみくもに広くはできないのかもしれません。
でもとってもすてきなお店でした。


最終日は、せっかくついでに神戸のヴィンテージスタインウェイで有名な日本ピアノサービスにも立ち寄りました。
マロニエ君はここに行くのはもう3度目か4度目だと思いますが、先代がお亡くなりになってからはじめて伺いました、
あのカリスマ性をもった先代がおられない店はどうなっているのかとも思いましたが、ご子息方がこの店の理念と精神を何一つ変えることなくがっちりと受け継がれており、置いてあるピアノもあいかわらずの名品揃いで、ようするに良いものは何も変わっていませんでした。

先代が最後にニューヨークに行かれた際に買ってこられたという、ジュリアード音楽院にあったというDはニューヨーク・スタインウェイにしては珍しい艶出し仕上げでしたが、まんべんなく良く鳴るし、なんともいえずリッチで深い音がして、まさに文句なしの1台という印象。
またその傍らに置かれた、A3(A型のロング、現在生産されていない奥行き約200cmのモデル)も言われなければB型と思ってしまうほど良く鳴るピアノで、音よし響きよし、バランスに優れ品格もあるというあたり、「ああ持って帰りたい」と思うようなミドルサイズの1台でした。

新品のピアノにはむろん新品にしかない良さがあり、それを否定するものではありませんが、やはり個人的に深く惚れ込んでしまうというか、魂をもって行かれそうになるのは、マロニエ君にとっては古い時代のピアノのようです。
潜在力のある古いピアノに、最高の整備と調整を惜しみなく施す、これがピアノの理想のような気がしました。

いろいろありましたが、ピアノに関しては収穫多き旅でした。


2017/05/19 Fri. 02:09 | trackback: 0 | comment: -- | edit

我が家での印象 

シュベスターが納品されました。
調律がまだなので本来の状態とは思えませんが、それでもとても軽やかによく歌ってくれるピアノだと思います。
とくに中音から次高音あたりは、柔らかでデリケート、華やかでくっきりした輪郭があって、ピアノがもっとも旋律を奏でることの多い部分が美しいピアノだと想います。

もちろん個体差があるでしょうし、何台ものシュベスターを経験したわけでもないから、他の個体がどうなのかはわかりませんが、少なくとも我が家にやってきたピアノに関していうと、ゆったりした曲を、デリケートに弾けば弾くほど、このピアノの懐の深さというか、得意とするところがどこまでも出てくるように感じました。

スタインウェイのような第一級品は別ですが、いわゆる大量生産のピアノは、アスリート的なテクニックをもった人ができるだけバリバリ弾いたほうが演奏効果が上がるように思うし、ピアノの価値もそういうときにでるようで、あまりタッチのこだわりとか、音色の変化の妙、ピアニシモの聴かせどころという部分ではとくに特徴らしきものが出るようには思いません。
その点、シュベスターはフォルテがダメというわけではないけれど、繊細なものを求めていくときのほうで本領を発揮して、どんなに柔らかく小さく弾いても音楽的なテンションを決して失わないところは素直に凄いなあと思います。
同じ曲でも、早めにさっさと弾くより、よりゆっくりと、より注意深く、気持ちを込めて弾けば弾くほど、納得の仕上がりになるのは素晴らしいと思うし、これがマロニエ君の好きなタイプのピアノです。

ただし、つい先日、工房というか倉庫で弾かせてもらったときと、我が家で弾いてみて最も違う点は「響き」の特性だと思いました。

これはシュベスターの問題というより、アップライトピアノ全般が共通して抱える問題のように感じます。
広い空間では、アップライトピアノの後ろ部分は広い空間に向けて開放されているので、そこからきれいに抜けたような響き方をしますが、通常の家などではアップライトは後ろに大きな空間をとって設置することはまずなく、大抵の場合、後ろ部分を壁にかなり寄せて置くスタイル(ほとんどくっつけると言ってもいい状態)となります。

そのため、楽器から最もダイレクトに出てくる音を、もったいないことに壁で塞いで、そこがいつもフタをしたような状態になってしまうようです。

グランドで言えば、お腹から下の部分に当てものをしていつも閉めきっているようなもので、これでは本来の響きを発揮させることはできませんが、かといってアップライトをわざわざ壁から話して置くというのも、欧米人の住むような広い部屋ならともかく、普通は現実的になかなかできることでもないでしょう。
だいいちそんな広い空間があれば、やはりグランドでしょうし。
つまり、アップライトはグランドに比べて、常に響きという点で設置環境で大きなハンディを背負っているというべきかもしれません。

書き忘れていましたが、個人的に「この」シュベスターの魅力のひとつだと思うのがタッチでした。
アップライトはみなストンと下に落ちるタッチ感かと思っていたら、あにはからんやコントロール性があり、音色変化がつけやすいのです。
それはとりもなおさずタッチに一定の好ましい抵抗があるということです。
この好ましい抵抗があることによって、奏者はタッチのコントロールが効くのですが、技術者さんの中にはなめらかで軽いタッチがいい、もしくはそうであることがみんなに好まれると信じこんで、まるで電子ピアノのような軽いペタペタのタッチにしてしまう場合があります。

そういうペタペタ感の無いことは麗しい音色と相まって、シュベスターを買ってよかったと思える部分です。
さらには気になっていたヒビですが、技術者さんの言われる通り、自室に入れてみるとほとんど気にならないレベルであることがわかり、これを無理して修理したり塗り直したりしなくてよかったとしみじみ思いました。
ときどきは人の言うことにも素直に耳を貸すべきですね。

こう書くといいことずくめのようですが、低音にはいささか不満が残りました。
まともな調律がなされていないので、現時点で結論めいたことを言うべきではないかもしれませんが、単音ではそれほど悪くないけれど、重音・和音になったときのハーモニーがあまりきれいではなく、このあたりは改善の余地があるのか、こんなものなのか現在のところ未知数です。

とはいえ、弾いていてとても豊かな気持ちになれるピアノで、これは楽器としてまず大切なことだと思います。
それともうひとつ気に入っているのは鍵盤蓋に輝く「SCHWESTER」という文字で、字面といい書体といい、なんともいえない趣がありますし、正直をいうと日本のピアノで、これほどいいと思えるのはひとつもありません。
音とは直接関係ないことですが、こういうことってマロニエ君は意外に大切だと思います。


2017/05/14 Sun. 01:47 | trackback: 0 | comment: -- | edit

いざとなれば階段? 

工房到着からすでに2ヶ月、ヤフオクの落札からそろそろ3ヶ月が近づき、ようやく納品日も決まって我が身に距離が縮まってきた我がシュベスターですが、その作業のスローさには正直しんどいものがありました。

もともとマロニエ君の予想からすれば、せいぜい10日から2週間ぐらいかなと勝手に思い込んでいたので、はじめのうちは性格的にかなり耐え難い気分が続くことになりました。
技術者さんの方針もいろいろで、作業を集中的に一気にやってしまうところもありますが、今回はその真逆というか、こういうやり方もあるということで職人さんの世界もいろいろあっるということで、たいへん勉強になりました。

救いは、その技術者さんはものすごく人柄の良い方で、センスもあるし、決していい加減な仕事はされないという信頼感でした。
他の仕事も多くかけもちしておられるという事情もあって、あまりせっつくのも気が引けるし、無理を頼めば本当に睡眠時間を削ってでも無理をされそうでそれは却って怖いので、とにかく先方のペースに任せることに。
なので途中から完全にこちらの気構えも切り替えました。

恥をさらすようですが、もともとマロニエ君は「待つ」ということが子供の頃から再大の苦手要素のひとつで、その苦痛はなかなか普通の人には理解の及ばないものかもしれません。なので、自分の努力によってなんとかなるものなら大抵のことは頑張りますが、今回の塗装補修などは、こちらが頑張れる余地はゼロで、ひたすら技術者さんにお任せするしかありません。

塗装以外にも、日中は調律の仕事がおありのようだし、当然ながら他の急ぎの仕事があれこれ割り込んできてもいるでしょう。さらには塗装なので天候には最も左右され、雨になると塗装の作業は完全無条件でストップするそうです。あれやこれやで遅れに遅れて、当初は4月の中頃か後半ぐらいといわれて(それでも驚いた)いたものが、けっきょく5月中旬になりました。

前回も書きましたが、磨いても消えない何本ものヒビはあるし、それが部屋に置いたときにどんな感じを受けるかもわかりません。
でも、冷静になれば、決して負け惜しみではなしにマロニエ君は今どきの新品ピアノの、まるで電気製品のような異様なピカピカのあの雰囲気も音も好きではなく、だから古い手造りのピアノをゲットしたといういきさつがあったわけで、初心をしっかりと思い出すことに。
それ以外はさすがはピアノ専門の木工職人さんだけのことはあって、塗装も、金属類もまったく見事な仕上がりでした。

運びこむ部屋は自宅の二階になるので、道路からユニック(トラックに装着されたクレーン)で二階のベランダに上げて、そこの窓枠などを外して屋内に運び入れ、あとはドアや廊下を経由して設置場所まで移動する予定です。
一度も下見に来られなかったので大丈夫かと思っていましたが、以前も別の運送会社がその方法で入れたことがあると伝えると「大丈夫です!」とのことで、おまけに「どうしてもダメな場合は階段から上げます」という豪快な事を言われ、なんと頼もしい事かと感心しました。

ピアノの運送屋さんにも個性がいろいろあって、階段は絶対にいやがる会社もあり、クレーンを使うために事前の打ち合わせから入念な下見までされるところもありますが、マロニエ君はなんとなく感覚的に、あまりに慎重すぎるような姿勢を見せられると却ってイヤミな感じを受けるし、ダイジョウブ、なんとかなる/なんとかしてみせると胸を叩いてくれるタイプのほうが好きです。

マロニエ君はこれまでにもかなりの回数、さまざまな運送会社から、さまざまなサイズのピアノを自宅に出し入れしてもらった経験がありますが、搬入搬出でトラブったり傷をつけられたようなことは一度もなく、どこもプロの運び手としてしっかりした仕事をされるという点では本当に立派だと思うし、そのあたりは日本の会社はしっかりしていて信頼感が高いと思います。

以前、『パリ左岸のピアノ工房』だったか、そんなタイトルの本の中で著者がついに小型のグランドを購入し、自宅のアパルトマンに納品されるシーンがありますが、何階だったか忘れましたが(たぶん2階以上だったような)、屈強なひとりの男性が背中にピアノを括りつけて、階段を怪力でよじ登ってくるシーンがあり、たいそう驚いた覚えがあります。

ヨーロッパは何かと厚みのある高度な文化圏と思っていますが、意外なところで旧態依然としたスタイルが残っていたりして驚きとともに笑ってしまいます。その点では日本は地味だけれど、全国隅々まで道路が舗装されているように、そんな方法でピアノを搬入するなんてあり得ないし、さりげなくも近代性が整った国だなあと思います。
ショパン・コンクールの会場であるワルシャワフィルハーモニーも、あれだけ国家的イベントであるにもかかわらず、ピアノ用のエレベーターなんぞなく、すべて地上から人海戦術で階段をぐるぐるまわって、あの巨大なコンサートグランドをステージまで運び上げると知って、そのローテクぶりには心底おどろきました。


2017/05/12 Fri. 12:42 | trackback: 0 | comment: -- | edit

作業終了 

ヤフオクでシュベスターを落札したのが2月の下旬。
それから運送の手配をして、福岡に到着したのが3月上旬、さらにそれから約2ヶ月が経過しました。
仕上がりがいつ頃になるのか、はじめは少しでも早くと思って気を揉んでいましたが、途中からどうもそうはいかないらしい気配を悟ってからは半分諦め気分に突入。
それが、ついに「できました」という一報を受けるに至り、ゴールデンウィークの最後の日曜の夜、工房に見に行ってきました。

全身のあちこちに認められた細かい凹み傷等はパテ埋めして直し、塗装も必要箇所は塗り直しをして、蝶番やペダルなどの金属類もピカピカとなって見違えるようにきれいになりました。
2ヶ月というのが妥当かどうかはともかく、ここまででも大変な作業だったろうと思います。
ただし、ボディのあちこちを走り回る塗装ヒビだけは磨いても消えることはなく、これだけは如何ともし難いものでした。

どうしても直したい場合は塗り直しをすれば可能なのですが、以前も書いたようにこの職人さんは、古いものの味わいに敏感で、そのあたりの感性というか美意識を持っておられます。
その方の意見によると、このヒビはこのピアノの味として残しておいても悪くはないんじゃないかということで、マロニエ君も冷静に考えてみましたが、古いピアノの塗装だけ(中まで全部オーバーホールするのならともかく、外側の見てくれだけ)を新しくするのも見方によっては物欲しそうでもあるし、言われている意味も自分なりに納得できたので、美しくはしてもらうけれど、ヒビはそのままにすることにしました。

いちおう整音と簡単な調律も終えた状態ということでちょろちょろっと弾いてみたのですが、その音の良さには想像以上のものがあり、シュベスターが一部の愛好家の間で根強い人気があるらしいのも大いに納得できるものでした。

技術者の方も言っていましたが、「このピアノは僕がいうのもなんですが、塗装とか外装はどうでもいいというか、べつに(マホガニーの木目ですが)黒でも良かったんじゃないかと思う」と斬新なことを言われます。
それほど、このピアノの価値は音そのものにあるのであって、だからそれ以外は大した問題じゃないという意味のようでした。

マロニエ君は普通は音だけでなく、外観も結構気にするミーハーなんですが、たしかにこのピアノに関しては彼の意見が何の抵抗もなくすんなり気持に入ってきたのは、それがいかにも自然でこのピアノに合っていると思ったからだと思います。
このピアノは、その固有の音色やふんわりした響きを楽しみながら弾くための楽器であって、それ以外のことは二の次でいいと思わせる人格みたいなものを持っている気がします。

重複を承知で書きますと、シュベスターのアップライトはもともとベーゼンドルファーのアップライトを下敷きにして設計開発されたそうですが、悲しいかなマロニエ君はベーゼンドルファーのアップライトはむかし磐田のショールームでちょっと触ったぐらいで、ほとんどなにも知りません。
むろんシュベスターはベーゼンのような超一流ではないけれど、独自の繊細さや優しげな響きが特徴だというのは確かなようだと思いました。
繊細といっても、けっしてか弱いピアノという意味ではなく、音に太さもあるけれど、それが決して前に出るのではなく、あくまでもやわらかなバランスの中に包み込まれる全体の響きのほうが印象に残ります。
少なくとも無機質で強引な音をたてる大量生産ピアノとはまったく違う、馥郁としたかわいらしい音で、弾く者を嬉しい気分にさせてくれます。

大別すればベーゼンドルファーはオーストリアなのでドイツ圏のピアノということになるのかもしれませんが、シュベスターはもっと軽やかで甘さもあり、こじつければちょっとフランスピアノ的な雰囲気も持ち併せているように思いました。
このあたりはプレイエルに憧れるマロニエ君としては嬉しいところですが、それはあくまで勝手な解釈であって、本物のプレイエルはまたぜんぜん別物だとは思いますけど。

その点でいうと、以前愛用したディアパソンはあくまでも堅牢なドイツピアノを参考としながら昔の日本人が作ったという感じがあり、その音色の一端にはどこか昭和っぽい香りがあったように思います。(現行のディアパソンには昭和っぽさはありません、念のため)

シュベスターの特徴とされる北海道のエゾ松響板のおかげかどうかはわかりませんが、量産された響板をなにがなんでも鳴らしているという「無理してる感」がまったくなく、どの音を弾いてもほわんと膨れるような鷹揚な響きが立ち上がって、楽器全体がおっとりしているようにも思いました。

不思議というか幸運だったのは、塗装面にあれだけヒビがたくさんあったにもかかわらず、肝心の響板は、ずいぶん細かく点検していただきましたがどこにも割れのようなものはなく、楽器としての肝心な部分は望外の健康体を保ってくれているということでした。

あと技術者さんが言っていたことですが、すごくしっかり作られていたということ。
塗装の修正をしたりパーツ交換したりする際に、あちこちの部品を外したり分解したりするそうですが、それが通常のピアノに比べてずいぶん大変だったらしく、そのあたりにも手造りピアノの特徴なのか、製作者の良心のようなものが感じ取れる気がしました。

まだ自宅に納品されていませんから、実際に部屋に入れてみてどんな印象を持つかは未知数ですが、なにしろヤフオクで実物も見ず、音を聴くこともせずいきなり入札するという、ピアノの買い方からすればおそらく最もやってはいけない入手方法であって、いわば禁じ手のような買い方をしてしまったわけですが、そんな危険まみれの購入にしては、覚悟していたよりずっといいものだったようで、とりあえずラッキーでした。

2017/05/09 Tue. 02:40 | trackback: 0 | comment: -- | edit